先日の東京都議会文教委員会で、先日の東京都議会文教委員会で、ESAT-Jによる学校現場の混乱についてアオヤギ有希子議員が都教委に質問した際、「混乱しているとは認識していない」という回答がありました。この回答に、《それは現場の声とは違う!》と怒りを感じた先生たちも少なくないようです。たくさんメールをいただきました。中でも、現在、中学3年生を担当する中学校の先生がこの点について詳しく書いてくれました。ご本人の了解が得られましたので、以下に(ママで)掲載いたします。
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① 現場は混乱していない? 現場に来てみてください。私は通常業務に加えて、登録ができない生徒・ご家庭に直接の対話、電話かけに奔走、今日はとうとう手紙を書き(個人情報に関わるので、あまりここまで書き物を渡してなかったのですが)、管理職に添削してもらい二度書き直し、やっと出す…そんな事の繰り返しをしています。現場はとても混乱しています。そしてまた、写真が不採用になって戻ってきた生徒も5%ほどいます。入学以来マスクのみだった生徒たちで、受験対策などの心の準備もなくいきなり「自撮り写真送れ」に拒否感を示す生徒もおり、それへの対応も進行中でさらに混乱に輪をかけています。1日に一コマしかない授業の合間に、授業準備や生徒との対話を置き去りにして奔走しているのが「現実」です。混乱しています。もう一回言います。混乱しています。混乱していないと言うのは、あまりに現場を知らなさすぎで、あきれます。
② 不登校生徒の保護者の方とずっとやりとりをしてきました。とうとう登録しない、を選ばれました。保護者が直筆で書く書類を書く必要があったので来てくださいました。「こんな念書取ってまで何がしたいんでしょうか。」疑問と、怒りの声でした。子どもも自分も、とても対応できる状況ではなかったが、先生が困るだろうと思って頑張って対応し、今日ここに来ました。とても怒りを覚えますが、先生のためです。とおっしゃって念書を書いて下さいました。現場の声です。
③ 保護者の声です。「最近は集まったり、オンライン上だったり、このスピーキングテストでもちきりです。みんな外部の業者にこんなに個人情報を強制的に出させられることにとても怒っている。でも受験生の親としては何もできなくて仕方なく登録した。」これが現場の実態です。東京都教委は、保護者がすんなりと登録していると思ったら、本当に市民の心を見誤ることになると思います。みんな仕方なくやっている。不信感でいっぱいなのです。一触即発、何かあれば大騒ぎになり、教育行政への信頼失墜、教育行政がひっくり返る位のマグマが流れていると感じています。
④ ある休みがちな生徒の親御さんは、登録しないと点がもらえないことを伝えると、「と言う事は入試なのですね、この登録は」「いいえちがいます、アチーブメントテストと言って実力を測るテストです」「それがなぜこんなに早く入試の点数につながるのですか。登録しなければ入試に点が入らないのであれば入試と同じですよね。」「そこはおっしゃる通りです。登録しなければ点がもらえません。」「だったら東京都教育委員会は初めから、これは入試の一部です。ときちんと言ってもらいたい。それなら個人情報を出すことも納得はしないけど意味はわかります。なんだか詐欺みたいですね。」
電話の向こうから憤りが伝わってきました。
⑤ もう一人の保護者の方 「自分も英語を使って仕事をするのでスピーキングの力はこれから大事と思うがこのテストのやり方には大反対。しかし受験生の親としては待ったなし。背に腹は変えられず、ひとまず子供に爆進させることにした。英会話の教材を申し込みました。足元見られてるなあという感じです」。
登校生徒のお母さんがおっしゃった「先生のためにやりました」が胸に突き刺さりました。涙が出そうになりました。そんな思いをさせてまで成り立っている制度であることを、東京都に知らせたい。
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この先生と仲介の労をとっていただいた柏村みね子さんは「私は、真面目に申し込みシステムに向き合っている先生ほど、板挟みになって、苦しんでいる、と見ています」と添えてくれました。
先日、ESAT-J試験監督の求人広告について書きましたが、あんな求人広告を作ったベネッセはもちろんのことそれを野放しにしている東京都教育庁はこの実態にどう向き合うのでしょうか。
④は重要な点ですが、注釈が必要かもしれません。2022年4月に配られた「都内公立中学校等に通う生徒及び保護者の皆様へ」宛てられた「中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)のお知らせ」と題されたリーフレットがあります。
その「1 ESAT-Jとは?」に明記されているように、ESAT-Jは本来「アチーブメントテスト」なのです。「中学校で学んだ英語で、どれくらい話せるようになったか」、つまり、学習の達成度を学習者である生徒自身が知り、「学習アドバイスから、レベルアップのための学習方法」、つまり、今後の学習方針と目標を生徒自身が立てられるようになることを第一義としたものなのです。さらに、学校は「テストの結果から、より分かりやすく英語の力を身に付けることができる授業」を開発していくこともその目的の一環とされています。
ところが、「9 都立入試への活用」という項目には、「日頃の学習で身に付けた「話すこと」の力が、ESAT-Jで評価され、その結果が都立高校入試に活用されます」と書かれています。しかし、すぐわかるように、前の段落で書いた目的を持ったアチーブメントテストの結果を評価・選別するための入学試験に使うというのは「活用」どころか、よくて「流用」、ほんとうのところは「悪用」です。目的がまるで異なるのですから。
冒頭に書きましたように、わたくしの手元にはほかにも先生や保護者からメールが届いています。みなさん、ぜひ率直なお気持ちを聞かせてください。「混乱など起きていない」というご意見もあるなら、ぜひお聞かせください。いただいたご意見を部分的にでも引用させていただくときには必ず了解を得てからにいたしますので、ご安心ください。宛先はoyukio[@]sfc.keio.ac.jp(ご使用の際は[と]を削除してください)です。
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