シンポジウム「生成文法の企ての現在を問う‐LGB刊行三十周年にあたって」報告

最終更新: 3月21日

8月27日(土)、津田塾大学にてシンポジウム「生成文法の企ての現在を問う-LGB刊行三十周年にあたって」が開催されました。池内正幸先生(津田塾大学)による趣旨説明の後、北原久嗣講師(慶應義塾大学)、郷路拓也講師(津田塾大学)、保坂道雄講師(日本大学)、藤田耕司講師(京都大学)による発表が順にあり、最後に全体討論が行われました。

北原講師の発表(題:“Language Variation and Parameterization Revisited”)では、LGBモデルではパラメータで捉えられていた言語の多様性を、third factorによって再解釈するという目的のもと、英語と日本語における語順の違いをV、v*、T、Cの性質の違いから捉える案が提示されました。MP以降UGに対する考え方に変化がある一方で、Chomsky (1981)での基盤となるものは現在も変わっておらず、むしろそれらは警告の役割も果たしながら今後の研究の発展に寄与し続ける、ということも述べられました。

郷路講師の発表(題:「ミニマリストプログラムと言語獲得研究」)では、statistical learningやsubset-superset hypotheses等の方略を子どもが利用できること、そしてそれにより構築される文法があり得ること、さらには大人の文法においても、それらの方略を使って構築したとされる文法が存在することが、先行研究の成果を踏まえながら述べられました。そのことにより、実は子どもの言語獲得におけるUGの役割は、LGBモデルで考えられていたものより少ないのではないか、そして言語獲得におけるUGの役割を縮小していく、という意味において、結局は言語理論研究と言語獲得研究は同じ方向に向かっていると言えるのではないか、とも述べられました。ただし注意すべき点としては、子どもがそれらの方略を使えることと、子どもが言語獲得の際その方略を利用することは必ずしも一致することではない、ということでした。MPでの新たなUG観において、言語理論と言語獲得研究の接点はどう保たれるのか、という問いに対し、新たな方向性の一つが示されました。

保坂講師の発表(題:「二重目的語構文再考: Dynamic Functional Projectionの視点から」)では、二重目的語構文の共時的・通時的が取り上げられました。英語では、The boy gave the girl a book.という表現もできますし、The boy gave a book to the girl.という表現もできますが、フランス語では後者のみ、ドイツ語では前者のみが許されます。また、通時的にみても、古英語では前者しかありませんでした。このような多様性は長い間研究のトピックとされてきました。Larsonの分析や一致(Agree)に基づく分析等、様々な分析を紹介した上で、近年の、Mergeを単純で基本的なものに限る考え方、Functional Projectionの考え方から格認可を捉え直し、この多様性を、関与するFunctional Projectionの違いによって説明されました。

藤田講師の発表(題:「生成文法から進化言語学へ」)では、進化の観点からLGBモデルの問題点を指摘し、MPに基づいた今後の研究の方向性について示されました。進化言語学的観点からLGBとMPを対比し、LGBでは扱うことができなかった進化の問題を考えることができるようになってきたこと、MPにおいてはLGBで原理・制約とされたものを生物学的資質(UG)とそれ以外の部分に振り分けた上で、そのどちらも第三の要因・自然の法則によることを示すのだということも提案されました。また、P&Pアプローチと自然選択はどちらも「その選択肢はどのように生じたか」という問題を抱えていることを指摘し、認知考古学の観点から人間言語の成立にはSub-Merge([[the boy] [saw Mary]]のように2つの山を合わせるもの)が重要であるとする考えを展開されました。現在のヒトにおいて二つのモジュールが関連しているからといって共通の由来を持つとは限らないこと、遺伝子はblueprintではなくtoolkitであることなど、つい陥ってしまう考えに対する指摘も多くなされました。

本シンポジウムを通し、研究全体の方向性に関わる提案および具体的な言語現象についての提案が複数の分野から為されることで、これまでの生成文法研究の移り変わりや、言語をヒトという生物種のもつ能力としてみることについての理解が深まりました。また北原講師の発表にもあったように、研究対象やそれに対するアプローチはその時々の研究が決めることであり、最初から明確な訳ではありません。基盤となる考えが変わらない限り、理論の変遷に伴うアプローチの変化それ自体には、大きな意味はないのではないかと感じました。

記事作成:桃生、吉原

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