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小学校外国語活動

更新日:2020年3月21日

 新学期が目の前に迫ってきました。教育界もさまざまなレベルで慌ただしくなっているようです。  そんな状況の中で、非常に気になりはじめたことがあります。小学校での外国語活動(実質的には、英語活動)についてなのですが、おびただしい数の関連する研修会、書籍、記事などの情報が目につきます。教室での実践が具体的な課題となってしまった小学校の先生がたや火急の対応を迫られている教育委員会関係者のみなさんは仕方のないこととして、本来、そうした動きからある程度の距離を置いて冷静に発言・行動すべき大学人をはじめとする教育関係者までもが、英語活動の導入を前提にそれにどう対処すべきかという議論にほぼ終始しているのはまことに悲しいことです。  現実問題への対処法を講じるのは大切なことで、わたくしもそうしたことに関する提案をしていますが、それだけに終わってしまうのでは困ります。事実、外国語活動研修会などの講師として呼ばれている大学人の中には、外国語活動の主たる目的が英語「スキル」(≒運用能力)の育成にあるのではなく、「コミュニケーション能力の素地」の育成にあるのだということの意味をきちんと理解していないかたもおられるようです。  こうした事態が続くと、もうすでに動きが活発になってきている、小学校での英語の教科化が現実のものとなってしまう危険性がきわめて高いと考えます。そうなってしまうと、もはや取り返しのつかない事態が生じるということを理解し、英語教育関係者の慎重な行動を節に希望します。  なお、わたくしと立場は異なりますが、菅正隆教科調査官は最近の解説の中でつぎのように書いています。

(4)研修指導者は誰が適当か  この点は、研修の成否に直接関係するので十分に注意が必要である。基本的には、校内の中核教員(中核教員研修受講済者)に中心となって取り組んでもらうことになるが、すべて担当できない場合には、校内の教員でローテーションを組むことも考えられる。ただし、間違った考え方(「英会話」を推進する人、パターン・プラクティス、ダイアログの暗唱を唱える人、フォニックスを是とする人)の教員は避けるべきである。また、大学の教員を招聴する場合には、その専門性を十分に調査する必要がある。児童英語(小学校外国語活動とは異なもの)、第二言辞教育などの専門家は極力避けるべきである。ネイティブ・スピーカーや地域人材に関しても、スキル至上主義の人や、教員の話を開かずに一方的に自分の考えを押し付ける人は避けたい。無難なところでは、教育委員会の指導主事等にお願いするのも一つの手ではある。(『学校マネジメント』09年4月号、25 ページ)  学校英語教育の文脈で言う「コミュニケーション(能)力」がなんであるのかについてきちんとした議論がなされているわけではないので、この論述のように否定的規定にならざるを得ないのですが、メッセージは明確です。教科化も、「スキル」育成もあきらめ、「コミュニケーション能力の素地」を育成し、ことばの大切さや豊かさに気づかせるための外国語活動を導入した真意をきちんと理解する必要があります。  ちなみに、わたくしには不満が残るものの、諸条件を考えたとき、外国語活動は文科省が考えた「最適解」であると考える理由はまさにこの点(「教科化も、「スキル」育成もあきらめ、「コミュニケーション能力の素地」を育成し、ことばの大切さや豊かさに気づかせるための外国語活動を導入した」こと)にあります。

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