わたくしの若い友人に、慶應の理工学部で研究と教育をしている、杉山由希子さんという研究者がいます。彼女は音声学の専門家で、勉強家です。その杉山さんは来週、アメリカのサンディエゴで開かれるアメリカ音響学会で発表をすることになっていますが、それに先駆けて、学会からの招待により、一般のかた向けに論文を書きました。この「招待」は非常に厳しい審査を経てなされるもので、快挙です。
日本語のアクセントはピッチアクセント(音の高低)、英語のアクセントはストレスアクセント(音の長短など)と言われていますが、杉山さんはじつは日本語はピッチがなくても単語の区別は出来るのだと言います。
例えば「彼はトリがいい」(紅白歌合戦の最終歌唱者)と「彼は鳥がいい」(焼き鳥が好きだ)の区別を音響分析すると、ピッチ、またはF0と呼ばれる音響要素がその識別に重要な役割を果たしていることが分かります。しかし今回の実験では、面白いことに、ピッチ情報がなくなってしまう「ささやき声(”whispered” speech)」でも、両者の区別が伝えられ、識別できることが分かりました。何故この様なことが起こるのか、音響分析はまだ途中のようですが、結論が大いに楽しみです。
わたくしのつたない説明より、ご本人の解説のほうがずっとわかりやすいかもしれません。音声情報もアップされていますので、以下のサイトを参照してください。 http://www.acoustics.org/press/162nd/Sugiyama_5aSCb.html
大きな学会での発表なので、大いに頑張ってほしいと思います。
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この杉山由希子さん、もともとは慶應の英文科の出身なのです。指導教授はわたくしの天敵と多くの人が思っている唐須教光さんです。唐須さんは慶應にいたころ、ゼミでどんな指導をしていたのかわからないのですが、たくさんの優秀な研究者を育てています。知り合いの若手でいくと、シカゴで博士号をとった柚原(ゆはら)一郎くん(意味論・統語論が専門)がいます。あ、彼、いま専任職を探していますので、よろしくお願いいたします。
人は見かけによらないものです。
(ネットでは、やぼな注釈も必要なので、加えておきます。唐須さんとわたくしは学問に対する姿勢や考え方も大きく違いますし、英語教育観に至っては正反対と言ってもよいほどです。しかし、どういうわけか(あるいは、だからこそ)、お互いにうまが合うのです。顔を見かけると、ついつい、笑顔になってしまう、そんな間柄です。そういえば、数年前、彼が慶應を退職するとき、その記念に、「唐須教光小学校英語教育論批判」慶應義塾大学言語文化研究所紀要(39), 173-181, 2008という論考を餞に贈りました。)
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