学分会(まなぶんかい)の第10回研究会が10月12日(土曜日)11時から17時まで高槻市生涯学習センターの研修室で開かれました。学分会の研究会は毎回いろいろな趣向を凝らして、英語教育やことばの教育についての理解を深め、授業の実践にもつながる試みを続けています。
今回は「授業をつくろう!」がテーマです。「ことばへの気づき」、「協同学習」、「人間理解」をキーコンセプト(概念)とする3つのグループに分かれ、みんなで授業を創ろうという試みです。お題は "My Dream"(仮定法)です。当日、11時に集まると、まず上野舞斗さん(事務局長)と大西里奈さん(代表)から今回の目的と目標についての手際よい紹介がありました。
上に書いた3つのコンセプトは日頃から江利川春雄、加賀田哲也、大津由紀雄の3人の顧問が英語/言語教育と関連づけて話をしているものです。上野さんがそれぞれがどんなコンセプトであるのかを要領よくまとめたあと、大西さんがそれらのコンセプトを授業に活かそう(落とし込もう)とするときにどんなむずかしさがあるのかについて忌憚のない(容赦ない)指摘をしました。

学分会にはたくさんの魅力があって、それがわざわざ関東から関西まで時間をかけて参加する理由なのですが、(30分程度のものなのですが)この最初のセッションだけでも十分元が取れました。まずは議論の基盤となるコンセプトについての正確な理解を確認し、土壌を整える。その上で、そのコンセプトを授業に活かそうとするときにどんな困難点があるのかを(そのコンセプトの重要性を説いている人の年齢とか、立場とかを忖度することなく)ただただ理性的に指摘する。すばらしいことです。心地よく、すがすがしい気分になれました。

このセッションの時、他の二人の顧問はどんな様子なのかを密かに観察させてもらっていました。上に書いたわたくしの思いと同じ思いであったようで、ときには頷き、ときにはメモし、≪ああ、こういう思いができる学分会っていいなぁ≫と感じていたようでした。
お題と関連する資料を渡され、授業創りが始まりました。そうそう、「授業づくり」の「つくり」の部分はひらがなで「づくり」とするか、漢字で「作り」とされることが多いようですが、今回の試みには(少なくともわたくしにとっては)「創り」がぴったりだと思いました。
わたくしたちのグループに与えられたお題は高校の授業でことばへの気づきという視点を考慮して仮定法を導入するという授業創りです。小学校の先生2人、(途中から参加された)高校の先生お一人、(語用論などに関心がある)大学の先生お一人、オンライン参加の大学生2人、そして、運営委員お一人という顔ぶれです。
わたくしはファシリテータという役割を与えられたのですが、その役割について冒頭のセッションで尋ねると(言い方は丁寧語でしたが)≪じぶんで考えなさい!≫という回答がありました。そこで、≪それなら、できるだけ口は挟まないようにしよう≫と決めました。もっとも、最初はそのように実行できたのですが、議論がとてもおもしろい方向に進んでいくうち、気がついたらけっこう発言をしていました。
仮定法というのは「「仮定」法」という名前にもかかわらず、必ずしも仮定を表すものではないとか、心的距離を調整することに関係があるのではないかとか、「仮定」を表すと言っても現実の状態とは異なった状態を提示する場合もあれば、なにかを実現するための条件を提示する場合もあるとか、≪いいね、いいね!≫の連続です。そこへ途中参加の高校の先生が「仮定法はifと同義と考えてはだめと最初に強調するんです」と決めの一言。Ifの使用が仮定法であることの必要条件でもなければ、十分条件でもないというところまで到達しました。
途中、みんなで弁当を食べながらも議論は続きます。この弁当がまたとてもおいしかったのはほんとうにそれがおいしかったからなのか、議論が楽しかったからおいしかったのかはよくわかりません。その両方かもしれません。
おなかが一杯なると眠くなることが多いのですが、今回は参加者の脳が活性化されたようで、的確で、かつ、おもしろい例文がたくさん出てきました。そうなると、さすが先生たち、移動式ホワイトボードを持ってきて整理し始めます。あと30分!消化不足の部分もありましたが、すごいものです。なんとかまとまりをつけました。

さあ、発表会です。各グループが順に成果を発表します。実際の授業実演にまで落とし込めたグループもありましたし、主としてそこまでの脳の苦悩を語るグループもありました。これは3つのコンセプトとグループメンバーの個性が織りなす景色の違いに過ぎません。
そして、締めは質疑応答です。3つのコンセプトの根幹に関わることについてのやりとりが続きます。これは顧問たちにとって至極の時間でした。すばらしさをただ褒めちぎるのではなく、不明なところ、疑問なところをどんどん指摘してくれます。上で、「年齢とか、立場とかとは関係なく」と書きましたが、そこ重要です。必要なのは相互の信頼。最近は「リスペクト」とか言われることが多いようですね。ほかの組織などではこの点が理解できない人がいたりすることもあるようで、生産性に欠ける騒動になったりするようですが、学分会では全員がその点を共有しているので、安心してものが言えるのです。
わたくしたちのグループでは2人の大学生がオンライン参加したと書きました。お一人は所用のため午後のセッションの途中で退席しましたが、2人とも積極的に議論に参加していました。今回のようなワークショップ形式の企画ですと、会場参加と異なり、一人ぼっちでのオンライン参加は気持ちを保持するのも大変なものです。それを考えるとこのお2人には頭が下がります。

あっという間の6時間でした。さあ、懇親会です。今回は阪急電車高槻市駅近くの韓国料理店が会場です。料理の質と量ともに申し分なく、呑み放題の酒の質もけっこう立派。言うまでもなく、大いに盛り上がり、大いに語り合った2時間でした。
懇親会の折、先生たちの研修会で今回のような授業づくりはあるのかと尋ねたところ、あるけれども、多くの場合、到達点(つまり、最終的にどんな授業を作るか)があらかじめ決まっていることが多く、今回のようにどこに辿りつくのか(あるいは、どこに辿りつけないのか)が提示されていないのは初めてだということでした。到達点が決まっているのでは「やらせ」に他ならず、知的興奮は半減してしまいます。
次回以降参加したくなりましたか。参加資格は相互信頼の気持ちと強い好奇心の持ち主であることだけです。もうすでにつぎの企画もいくつか決まっています。
学分会秋合宿2024
日時:2024年12月7日(土)〜8日(日)
場所:和歌山有田川町古民家「佐太夫」(南海・和歌山大学前駅などに集合して出発予定)
概要:温泉に、ダッチオーブンに、囲炉裏を囲んでの歓談と、相互の親睦を大切にする学分会ならではのイベントです。よく遊び、よく学びましょう!
(1日目)二川ダムでの昼食、紅葉狩り、蔵王橋(吊り橋)訪問、ダッチオーブン・串焼き、鍋の夕食、しみず温泉入浴、ゲーム大会、古民家(佐太夫)宿泊
(2日目) あらぎ島公園観光、かなや明恵峡温泉入浴(*2022年実績、今回は変更可能性あり)
関西新英研学分会第11回研究会
日時:2025年1月26日(日)13:30-17:30
形式:会場(大阪府内を予定)とzoomによるハイブリッド
講演:三浦孝さん・加賀田哲也さん「英語が教育であるために」
実践報告:〈人間理解のための英語教育〉実践報告(調整中)
詳細は追って学分会のサイトに掲載されます。
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