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記者会見の模様を伝えるテレビニュースのこと

2022年10月19日に都庁記者クラブの記者会見場で、わたくしを含めた5人が東京都教育長と教育委員会委員に宛てた、令和5年度の都立高校入学者選抜に中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)の結果を使用しないことに関する要望書(2022年10月14日付)についての記者会見を開きました。


その席上でのわたくしの発言の一部がネット上で誤って紹介されていることに気づきました。そこでは次のように紹介されていました。


(1)

外国人が、その言語を主にしない人が話した音声データを提供されて、ある一定の基準で評価しなさいと言われた時に、仮に専門家であっても極めて難しい作業である。


妙な文ですが、評価をする主体は「外国人」、対象となっているデータの音声は「その言語を主にしない人」と言っているように読めます。これはわたくしの発話意図ではありません。


間違ってそんなことを話してしまったのかなと不安になり、記者会見の動画を確認してみました。少し前の部分から書き起こすとつぎのようになります。


(2)

羽藤さんが指摘した最初の点については、なかなか英語の場合だと実感しにくいかと思うんですけど、みなさんそれぞれの母語、第一言語ですね、の…、を外国人が、その言語を母語としない人が話した音声データを提供されて、ある一定の基準で評価しなさいと言われたとき、これはまず専門家でなくてはならないわけですけれども、仮に専門家であってもきわめて作業が、むずかしい作業であるということは実感してもらえるかと思います。


あとでも触れますが、たしかにわかりにくいしゃべりをしています。ただ、いま問題にしている部分の発話意図はつぎのとおりであることは分かっていただけると思います。


(3)

(外国語の場合だと実感しにくいでしょうが)みなさんの母語について、その言語を母語としない外国人が話した音声データを提供されて、ある一定の基準で評価しろと言われたら、その作業がきわめてむずかしいものであることを実感してもらえると思います。


つまり、(1)のように受け取った人は、「みなさんそれぞれの母語、第一言語ですね、の…、を」をそれに続く部分とつなげることができなかったのです。もう一度言っておきますが、わたくしのしゃべりもたしかにわかりにくい。ことに、「みなさんそれぞれの母語、第一言語ですね、の…、を」の最後の部分で言い淀んでいるところが醜い。それは認めた上で、(1)のように受け取ってしまったら解釈不能となることに気づいて欲しかったと思います。


加えて、もう一つ注意しておきたいことは、(1)で「その言語を主にしない人」となっている部分は「その言語を母語としない人」と言っている点です。たしかに、「母語」はまだ一般への浸透度が低いかもしれませんが、ことばに関連する話題に関心を持つ方であれば、知っておいて欲しかった。


でも、(1)を取り上げた人はどこからその情報を得たのでしょうか。ご自身で書き起こしたのでしょうか。


何人かの知り合いが記者会見当日の夕方のANNのニュースで、わたくしの発言の一部が放映されたと教えてくれました。中に、録画したものを送ってくれた人もいたので、確認できました。


そのニュースではつぎの部分が取り上げられていました。


(4)

外国人が、その言語を母語としない人が話した音声データを提供されて、ある一定の基準で評価しなさいと言われたとき、これはまず専門家でなくてはならないわけですけれども、仮に専門家であってもきわめて作業が、むずかしい作業である。


同時に画面に現れた字幕はつぎのとおりです。


(5)

外国人がその言語を主にしない人が話した音声データを提供されて

ある一定の基準で評価しなさいと言われた時に

仮に専門家であっても極めて難しい作業である

【下線部強調文字】


これで(1)の出どころはおそらく(5)だということが分かりました。そして、(5)では「みなさんそれぞれの母語、第一言語ですね、の…、を」が切り取られ、「母語と」が「主に」に変えられています。


前に述べたように、わたくしのしゃべりに問題があることは事実ですが、(5)では奇妙な解釈しか得られないことに気づいてもらえたらよかったのにと思います。


では、どう話せばよかったのでしょうか。(2)からあまり逸脱しないように言い換えるとつぎのようにすれば誤解は防げたと思います。


(6)

(羽藤さんが指摘した最初の点については、外国語である英語の場合だと実感しにくいかと思います。)みなさんの母語について、その言語を母語としない人が話した音声データをある一定の基準で評価しなさいと言われたと想像してみてください。仮に専門家であってもそれがきわめてむずかしい作業であるということを実感してもらえるかと思います。


(7)のようにすれば、もっと分かりやすくなるかと思いますが、記者会見場にいた人や動画の視聴者の中には日本語を母語としない人もいるので、ことばの研究をするものとしては躊躇します。


(7)

(羽藤さんが指摘した最初の点については、外国語である英語の場合だと実感しにくいかと思います。)日本語について、日本語を母語としない人が話した音声データをある一定の基準で評価しなさいと言われたと想像してみてください。仮に専門家であってもそれがきわめてむずかしい作業であるということを実感してもらえるかと思います。


なお、わたくしの発言をネット上で英訳した方がいますが、(5)に基づいたものであるらしく、わたくしの発話意図と重大なずれが生じてしまいました。わたくしの意図を反映させた英文も添えておきます。


(8)

(NOT my intention) Yukio Otsu, Professor Emeritus of Keio University: "When a foreigner is provided with speech data spoken by a person whose primary language is not that language and asked to evaluate it according to a certain standard, it is an extremely difficult task even if he is an expert." 


(9)

(My intention) Yukio Otsu, Professor Emeritus of Keio University: "When someone is provided with speech data spoken by a person whose first language is not that language and asked to evaluate it according to certain criteria, it is an extremely difficult task even if she or he is an expert."


発話は必ずしも言語知識をそのまま反映したものであるとは限らないということは言語学入門の第一時間目に話す話題の一つですが、今回はまさにその点についてよい勉強をさせてもらいました。

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