あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
昨年暮れに「言語教育時評」(いいずな書店サイト内)にアップしたのですが、豊橋市の公立小学校で英語イマージョンを始めたというニュースには衝撃を覚えました。
いまだにほんとうにそんなことが起きているのか信じられず、関係者や事情等をご存知の方からの投稿を待っているのですが、いまのところ、そうした連絡はありません。
英語イマージョンと言えば、日本では沼津市の加藤学園での実践がよく知られています。ただ、加藤学園は私学ですし、周到な準備をしたのちに実践を開始しています。また、イマージョン教育開始後も英語での授業や生徒指導ができる教員を確保するために手間暇をかけています。豊橋市の場合、英語イマージョンは学区などで割り当てられるのではなく、希望者を対象としたものですが、中学、高校レベルまで、英語イマージョンを展開できる見通しがきちんとつけられているのか、教員の確保はだいじょうぶなのかといった不安が過ります。そうでないと、母語の確立もままならず、さりとて、英語の力も中途半端という状態に陥らない保証はありません。そして、何より大切なのは、母語の確立が思考と切っても切れない関係にあることを忘れてはならないということです。
小学校英語ももうすっかり既定路線になってしまっているようですが、多くの問題が残されたままになっていることを忘れてはなりません。つぎの学習指導要領の改訂に向けて、小学校英語をどうすべきかを議論し続ける必要があります。
新型コロナ状況下で、大学入試における英語の問題もあまり話題に上らなくなっていますが、これもすでに解決済みということではありません。幸い、この問題については優れた解説書や論説などが出版されていますので、そうしたものを参考にしながら、議論を深めていくことが大切です。
ずっと言い続けていることですが、英語教育の問題は構造的問題ですので、どこか一部分を局所的に考えるだけはことの本質を見損ねてしまう危険性があります。その点で、小学校と高校に挟まれた中学での英語教育のことを議論することも重要です。そして、見逃されがちなのが大学での英語教育です。実際のところは大学間格差が大きく、「大学での英語教育」とひとくくりにはできませんが、学生の英語力という点で上位にある大学であっても、読解力に不安を残す学生が多いことが大いに気になります。
わたくし個人としてできることは限られていますが、認知科学としての言語研究を生業とするものとして、今年も変わらず発信を続け、同志のみなさんとともにがんばっていきたいと考えています。
ご支援の程、よろしくお願いいたします。
大津由紀雄
2021年正月
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