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「瀬戸の花嫁」

ずいぶん前のことですが、ふとテレビを見ると歌手デビュー間もない小柳ルミ子が歌っていました。


歌の途中からだったのですが、「♪男だったら 泣いたりせずに 父さん 母さん 大事にしてね」という歌詞が耳に飛び込んできました。「瀬戸の花嫁」という新曲(山上路夫作詞)です。


すぐ《それにしても、ずいぶんと気の強い花嫁だなぁ》と思いました。嫁いでいくときに、父親に向かって、「男だろ!泣いてなんかいないで、母さんを大事にしてあげてよ」って、大八木駒大監督顔負けのセリフを吐くんですから。


もちろん、そのときはまだ大八木監督のことなど知りませんでしたし、大八木さんもまだ監督にはなっていなかったでしょうから「男だろ!」だなんて檄を飛ばすこともなかったでしょう。


しかし、どう考えても、この花嫁像は清楚感を前面に打ち出した当時の小柳ルミ子の売り出し方に似つかわしくない。


《なんでこんな歌を小柳ルミ子に歌わせるんだろう?》、そう思いました。


なんとかその気持ちを落ち着かせようと、翌日の歌番組を待ちました。いまと違って、歌謡曲を中心にした歌番組が毎日のように放送されていた頃のことです。


思わず笑ってしまいました。さっきのフレーズの直前に「♪幼い弟 行くなと泣いた」とあるのです。《そうかぁ、「父さん、男なんだから泣いてなんかいないで、お母さんのことを大事にしてあげてね」ではなく、「次郎、あんた男なんだから泣いてなんかいないで、父さんと母さんのことを頼んだよ」なんだぁ》。


この話、うちのかみさんに話をしたら、「「父さん、男なんだから泣いてなんかいないで、お母さんのことを大事にしてあげてね」だなんて考えるのは異常!」と一蹴されてしまったものですから、《異常に思われるのはなぁ》ということで、ずっと他人(ひと)には話さないできました。


でも、先日、Lynne Trussという人のEats, Shoots & Leaves(2006, G.P. Putnam’s Sons)という、とてもおもしろい絵本を読み直していて、「瀬戸の花嫁」を思い出したものですから、ちょっと書いておこうと思った次第です。


あ、この本、もともとは奇才故末岡敏明さんに教えてもらったものです。Trussはほかにも関連する絵本を出していますし、上記の絵本の元になった本は今井邦彦先生が『パンクなパンダのパンクチュエーション---無敵の英語句読法ガイド』(2005年、大修館書店)として翻訳を出しておいでです(それにしても、さすが今井先生。よくこんなタイトルを思いついたものです)。


でも、「瀬戸の花嫁」は「次郎、あんた男なんだから泣いてなんかいないで、父さんと母さんのことを頼んだよ」と言っているのだから、やっぱり大八木監督だ。

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