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英語民間試験導入についての今後の議論で忘れてはならないこと

更新日:2020年3月20日

11月2日の多くの全国紙朝刊に「英語民間試験導入延期」の大きな見出しが躍りましたが、少なくとも新聞紙面を見る限り、ことは大分、沈静化したと言えそうです。ただ、今回の延期決定はあくまで始まりであり、今後、根本に戻って議論が展開されなくてはいけないということを忘れてはなりません。

きょうは、その視点から2つの話題を取り上げます。

まずは、今後の議論に大きな影響を与えるであろう「検討会議」のメンバーのこと。この点については、英語民間試験を巡る一連の流れの中で鋭い筆致で論考を発表してきた、朝日新聞記者の刀祢館正明さんの指摘に尽きると言ってよいと思います。少し長めですが、引用させていただきます。

—–  議論の対象は英語の試験であり、大学入試のあり方だ。英語教育とテスト研究の専門家を集めるのは当然だろうが、ただし、これまで文科省が「お世話になってきた」人たちは、遠慮してもらいたい。なぜなら、まさにその人たちがかかわって作った試験が、こんなに大きな反対を受け、立ち行かなくなったのだから。  試験団体の関係者はもちろん、これまで民間試験の開発や問題作成、あるいは広報宣伝にかかわった先生たちも、ご遠慮願いたい。いくら当人が「自分は公正にやっている」「問題ない」といっても、それでは公正性を担保したことにはならないのが現代の常識だ。実際、野党のヒアリングでこのことを質問された文科省の課長たちが全員黙ってしまったこともあった。問題があったと認めたかっこうだ。  李下に冠を正さず、瓜田に履(くつ)を納(い)れず、という。  役所にとっても、参加するご当人たちにとっても、疑いの目で見られるのは本意ではないはず。ならば、検討会議に入っていただかないことが一番だ。  もちろん、検討会議には試験団体の関係者も入れない。会議の下に専門部会などを作るのかも知れないが、そこでも同じだ。  繰り返すが、今回の入試改革では、関連する会議や委員会について、メンバーに利益相反の疑いがあるのではと指摘されてきた。ことは信頼性の問題だ。これからの検討委員会はそこから出発しなくてはならない。  また、大臣自身、会見で「経済的な状況や居住している地域にかかわらず、等しく安心して試験を受けられるような配慮などの準備状況が十分ではない」と語っている。ならば、貧困家庭の対策に取り組んでいる専門家や、僻地や離島の高校生に詳しい専門家を加えてはどうか。(刀祢館正明「延期された英語入試、再検討へ四つの提言」『論座』2019年11月1日)https://webronza.asahi.com/culture/articles/2019110100004.html


—–


 もう一つ。学校英語教育にとって4技能をバランスよく育成することが重要であるという、一見もっともそうな考えについてもきちんと再検討する必要があります。仮にそうだとした場合でも、4技能のすべてをテストする必要があるかどうかや、そもそもテストすることが可能であるかどうかについても検証しなくてはなりません。その際、注意しなくてはいけないのは4技能対応を批判したり、少なくとも検証が必要だと言った途端、《また元の文法訳読に戻れと言うのか!》という声があがり、「守旧派」のレッテルを張られてしまう可能性があるという点です。  この二番目の論点については阿部公彦さんのつぎの論考が参考になります。阿部公彦「迷走する英語入試—「4技能重視」は誤解と利権の産物 グローバル人材は掛け声倒れに」『エコノミストOnline』https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20191105/se1/00m/020/011000c

 最後に付け加えておきたいことがあります。11月2日の朝日新聞朝刊に載った、吉田研作さんのコメントの冒頭の一言、「運用面の問題だけに、延期は残念」。もし吉田さんが本当にそう考えているのであれば、わたくしはそれは間違った認識だと思います。今回の延期の理由は運用面の問題だけではありません。理念の面でも、政策決定の過程の面でも、深刻な問題を抱えていたからこそ、こんなぎりぎりでのドタバタ劇になったのです。ただ、新聞のコメントは紙幅の都合もあって短くされてしまうのが常ですし、場合によっては意図が歪んでしまうこともあります。今度、お会いしたときにあの一言の真意を確かめたいと思います。

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