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遊佐典昭先生 集中講義

更新日:2020年3月21日

【一部加筆—2012年9月30日】 時間が経ってしまいましたが、9月15、16日に東京言語研究所にて行われた特別集中講義についてご報告いたします。


9月15、16日に、東京言語研究所にて、遊佐典昭先生(宮城学院女子大学)による特別集中講義が行われました。先生は、「生成文法からみた第二言語獲得研究 -日本人英語使用者(学習者)の諸問題- 」という演題で、生成文法に基づく第二言語(以下、L2)獲得研究のについてお話し下さいました。 講義は、今では古典となったRoss (1967), Chomsky (1973, 1977)の紹介から始まりました。この二日間を通して、遊佐先生は、生成文法の基本的思考法を丁寧に説明してくださり、認知科学としてのSLA研究には、言語理論への理解が不可欠で、さらに脳科学、言語処理を含め他幅広い領域への目配りが必要であることを強調されました。また、生成文法に対する深い理解は、言語データに対して新しい切り込み口を与えることを例を挙げて示してくださいました。


講義には、英語教育に携わる方々が多数参加していたこともあり、英語教師のメタ言語知識を育成するために有用な、生成文法に基づく第二言語獲得研究の成果についてもお話くださいました。但し、お話の大前提として、以下の二点が掲げられました。


(i) 生成文法は言語知識の解明を目指した心の科学であり、英語教育に直接応用することを目的としていない。

(ii) 生成文法の構築した抽象度の高い理論をそのまま現場に持ち込むことは危険である。


講義ではまず、関係代名詞の省略現象に対する生成文法からの説明についてご紹介頂きました。そしてこのような原理立った説明を知っておくことで、生徒の英語に対する興味関心を高めるinput、ある事項の学習にとって重要なinputを提供することにつながる可能性について述べられました。また、学習の足場としての学習英文法の有用性を認めつつ、その一般化の限界を知ることの大切さを述べられました。


次に、学習者がおかす間違いの原因には、母語からの転移だけでなく、言語の普遍性も関与していることを、英語をL2として使用する者(以下、使用者)の母語(以下、L1)に関係なく、使用者が“ arrive”, “happen”などの自動詞を誤って受動形で用いてしまう現象を取り上げ、説明されました。そして、英語教師が生徒の誤りの原因をこのように深く理解することでも、ある項目の学習にとって重要なinputを教師が提供できる可能性を示唆されました。


また、L1獲得のみならず、L2獲得においても、inputから得られる情報以上の言語知識を獲得している「プラトンの問題」が存在すること、L2獲得においても構造依存性の原理が働いていること、L1の知識とL2の知識の関係は、L1の知識がL2の知識に転移するという、L1→L2の関係だけではなく、L2の知識がL1の知識に影響を与えるというL2→L1の関係もあり、L1の知識とL2の知識は相互に影響し合うもの(L1⇔L2)であることなど、様々な研究成果を踏まえて紹介してくださいました。


この二日間を通し、生成文法に基づくL2獲得研究のおもしろさ、人間のこころの仕組みを解明しようとする姿勢、生成文法と英語学習の関連の3 点について十分に学ぶことができました。


特に、私にとって印象に残っているのは、学習者の誤りのデータを言語理論によって分析すると、言語の普遍性が垣間見える結果が得られること、そして、このような生成文法の知見を英語教師が知っていることで、重要なinputを生徒に与えられる可能性につながるということです。このような形で生成文法と英語教育が関連するためには、ある項目に関する使用者の知識が何によって変化するのか明らかになることが前段階として必要であるとも感じました。


また、講義の中では、生成文法から英語教育への示唆という観点で、両者の関係を見ました。あるinputを与えたことで使用者の知識が長期的に変化することが、英語教育の実践から明らかになれば、使用者の知識を変化させる引き金について、示唆を与えることになると思います。この点において、英語教育の側から生成文法に基づくL2獲得の理論に対し何らかの寄与ができる可能性があるとも感じました。(英語教育の実践には、様々な要因があるため、簡単に要因を導き出すことは困難かもしれませんが。)


生成文法の知見が英語教育に示唆を与えうることがある一方で、生成文法の研究者と英語教育の実践に携わる人々が交流する機会はとても限られているのが現状です。まず、英語教員養成カリキュラムにおいて、言語学は必修単位ではありません。多くの英語教員志望の学生が、英語、そしてことばの仕組みそのものの奥深さ、おもしろさに気づかないまま、免許を取得していきます。教員養成課程の中に、言語学を必修化することを求めることも、これからの課題の1つだと思います。また、英語科教員同士の勉強会では、授業研究が盛んに行われている一方で、言語学の知見を組み込んだ授業研究は非常に限られていると思います。このような研究会に言語学者が積極的に参加し、実践と理論の両者が相互に知見を出し合える場が増えることも、必要なことだと感じました。





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