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週刊BS-TBS報道部 「小学校英語教育の未来像」

更新日:2020年3月20日


【以下の文章は8月4日に認めたものです。事実の確認のため、掲載が一日遅れとなりました。】


きのう、8月4日(日曜日)は、大阪で「小学校英語(教育)そこまで言って委員会」(facebookの公式ページにもカッコ内がある名称とない名称が混在しているので、どちらが正式化はわからない)が開催され、満員御礼の盛況であったようです。


大阪府教育長の中原徹さん(私人として参加と伝え聞いた)をゲスト講師として迎え、小学校の先生、「例の」大阪の英語のおばちゃんたち、その他の人たちが一日かけて討論するという企画でした。まだ、その詳細は聞いていませんが、広大の柳瀬陽介さんがファシリテーターを務めたことから、実り多い議論が展開されたものと推測できます。



同じ、きのうの夜、21:00~22:54に放映されたBS-TBS「週刊BS-TBS報道部」では、「特集 未来ビジョン」の枠で、「小学校英語教育の未来像」が議論されました。きちんと時間を測ったわけではありませんが、おそらく小一時間はあったのではないかと思います。テレビやラジオの番組で、小学校英語の問題が取り上げられることは少なくありませんが、地上波の場合、たいていは5分から10分程度の扱いなので、今回のように長い時間をとった扱い方は珍しいと言えます。


しかも、下村博文・文部科学相が生出演し、小学校英語に対する姿勢を語ったことも注目に値します。下村さんの語りは落ち着きがあり、巧みで、マスコミに登場し英語教育について語る最近の政治家の中では語りの力に抜きんでたものを感じました。


番組では、冒頭に、教育再生実行会議の提言として、


● 学年の早期化 (「開始学年の早期化」の意—大津)

● 正式な「教科」に

 ✓ 時間を増やす

 ✓ 専任教員の配置


と書かれたパネルが提示されました。そして、キャスターからの「なぜいま教科化なのか」という問いに対して、下村さんは《それは言うまでもないことでしょ》という風情で、今日のグローバル社会の中で、英語は事実上、国際共通語となっており、英語の力を身につけるのは必然であるという趣旨のことを述べました。


その上で、全国で最も進んだ英語先進校の例として、東京都品川区・小山台小学校の取り組みが紹介されました。1年生から英語の時間が設けられ、6年生になるとこんなこともできるようになるという例として、「桃太郎」の「ジョイントストーリーテリング」の実践が紹介されました。6年生の授業では青山学院大学のアレン玉井光江さんまで登場しました。おそらく、この小学校での英語活動の知恵袋なのでしょう。


校長先生は、英語活動のような「英語ごっこ」からの脱却が必要であること、児童が不安を感じたりすることがあっても、それを乗り越えていく力を子どもたちは持っていること、先生も同様に不安や負担が増すことがあっても、それを乗り越え、結果を出すことが重要であること、そして、実際に大きな成果が上がっていることなどを誇らしげに語り、やってよかったと総括しました。


この実践を下村大臣は高く評価し、成功例に関する情報交換が重要であると指摘しました。さらに、いつから英語教育を始めるのがよいと考えるかという問いに対し、韓国、中国、台湾の名を挙げて、3年生からという可能性に言及しました。


こういうビデオを見ていつも思うのは、「成功例」は他の学校の参考になるかもしれないが、そういう例があるからといって、英語活動が正当化されるというものではないということです。


ついで、教員養成の問題が取り上げられた。東京学芸大学での実践や民間による指導者養成研修などが紹介されました。小学校で教えるための教員免許は持っていないが、小学生に英語を教えたいと願っている人たちにとっては、適当な教員が圧倒的に不足しているいまこそがチャンスであるというコメントもありました。


前半部の最後に、英語は大切だが、日本人としてのアイデンティティも重要で、その意味で、日本語や日本文化をよく理解することも大切であるというコメントが添えられましたが、それが英語教育の問題とどう関連するのかということについて議論されることはありませんでした。


後半に入り、いささか唐突に、1903(明治36)年に出された『教育辞書』の画像が映し出され、小学校で英語を教えることに賛否両論があることが書かれていると紹介されました。そして、賛成派と反対派の対立は100年も前から繰り返されているのだといささか冷笑気味なコメントが加えられました。あいにく、わたくし自身はこの現物を見たことはないのですが、江利川春雄さんの紹介文章を見ると、その扱い方はいささか公平を欠くようにも思えます。


江利川さんによると、この文献はあまり知られているものではないそうなので、この番組スタッフが江利川さんの書き物を読んで見つけたということなのかもしれません。もしそうなら、江利川さんに取材しておけば、この文献のきちんとした位置づけができたのにと思います。


ここで、賛成派、反対派を代表する論客として、それぞれ、吉田研作さん、鳥飼玖美子さんのインタビュービデオが流されました。ここで、吉田さんは小学校英語に対する考えをきわめて端的に語りました。《なぜ小学校からなのか》という点について、(公立)中学校へ入学するのに入試はないので、小学校では入試のことを考えずに、コミュニケーション力をつけることに専念できるという点を挙げました。


つぎに、教科化については、教科化するのであれば、それに先んじて、現在の英語活動のように、英語に慣れ親しむ機会を確保する必要があること、そのうえで、教科の部分では、基礎的な文法や発音などについても学習できるようにすることで、中学校以降における英語教育への「橋渡し」としての機能を担わせるとしました。


しかし、英語活動を前提としたうえで、「橋渡し」というのが教科としての小学校英語の機能であるなら、現状のように、小学校では英語活動によって「コミュニケーション能力の素地の育成」を図り、その上で、中学校から本格的な英語教育を行うという方式とどういう違いが期待できるのかがよく理解できませんでした。なんども繰り返して言っていることですが、20000校もある公立小学校にきちんとした入門期指導ができる教員を配置することは人的にも、財政的にもきわめて困難であり、どうして、そこまでして、小学校で英語教育をしなくてはならないのか。わたくしには一向に理解できません。


「四人組」の盟友の一人である鳥飼さんの話はわたくしの主張とほぼ寸分の違いもありませんでした(念のために書いておくと、「四人組」は英語教育の現状に強い危機感を持っているという点では共通していますが、現状の問題点の認識や改善法などについては、それぞれの考えがあります)。小学校では「コミュニケーション能力の素地の育成」を図ることが大切であるが、それは子どもたちの母語を利用して行うべきであること、小学校英語は必要性も、益もなく、害ばかりあること、英語教育は「吸収力、理解力、暗記力」に優れた中学生を対象に始めるべきであること、などを述べ、最後に、どうしても小学校で英語をやるのであれば、せめて英語嫌いを生み出さない工夫を凝らしてほしいとまとめました。


ビデオが写し出されたあとで、下村さんが、鳥飼さんが「中学生は吸収力、理解力、暗記力に優れている」と言ったが、それは間違いで、むしろ、小学生のほうが優れていると批判しました。放映された限りでいえば、鳥飼さんの発言はことば足らずであり、下村さんの批判は適切です。鳥飼さんの意図は《外国語学習に必要な認知能力、ことに分析力とそれを支える吸収力、理解力、暗記力に優れた中学生》ということであったのだと思います。


じつは、きょう(8月5日)、たまたまある用務で鳥飼さんに会いましたので、この点について尋ねてみました。返ってきた答えは《じつは、放映された、あの発言の前に、大津さんのいう、「外国語学習に必要な認知能力、ことに分析力とそれを支える」にあたる趣旨のことを述べたのであるが、その部分を編集で削除されてしまったのだ》ということでした。最近は画像処理の技術が進んで、編集しても、そのことがしろうとにはわからないほどです。鳥飼さんの言い分が正しければ、こうした「文脈外し」の編集は鳥飼さんにとっても、番組にとっても、残念なことです。


長くなってしまいましたが、以上が番組の概要です。総じていえば、現在、学級担任の献身的努力によって支えられている英語活動に対する評価がほぼ完全に欠落していること、深刻な問題となっている英語活動の負の部分に目をつぶっていること、小学校英語の問題が学校英語教育全体の中でどのような意味を持っているのかの議論があまりなかったことなど、不満が残りました。


さらに言えば、いつも引き合いに出される、韓国、中国、台湾でなにが起こっているのかについてもきちんとした目配りが欲しいところです。


『英語教育、迫り来る破綻』のなかでも、わたくしたちの「代案」を提示したつもりですが、できるだけ早い機会に、その代案をもっと明確な形で提案する必要を感じました。


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