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8.4朝日新聞「争論」後日談 (1)

更新日:2020年3月21日

8月4日朝日新聞朝刊「争論」に英語教育に関するテーマが取り上げられ、松本茂さんとわたくしがそれぞれの意見を述べたことはすでにお知らせしたとおりです。

 今回は後日談として、3つの話題について述べたいと思います。

 目次代わりですが、

1 松本さんとわたくしの学校英語教育に対する考え方は根本的に違うということ

2 押切もえちゃんのこと

3 北海道新聞の記事のこと

と書き始めたのですが、1について書き始めると、関連して話しておかなくてはならないことがたくさん出てきて、ブログにはなじまないことがわかりました。そこで、この点については、今後の講演や著作で展開することにして、まとめだけ書いておきます。(以下の文章、じつはもともと、「まとめ」だけでなく、小論考にしようと書き始めたものの一部です。)


1 松本さんとわたくしの学校英語教育に対する考え方は根本的に違うということ

 すでにこのブログに書いたことですが、これまで同様の記事が掲載された場合とは異なり、今回はわたくしの意見に対して賛成であるというコメントがメールでたくさん寄せられました。また、先日、実験や学会・講演の合間を縫って、久しぶりに研究室に行くと、そこにはたくさんのはがきや封書も届いていました。そのほとんどがわたくしの意見への賛意を述べたものでした(わざわざ当方に送ってくれるのですから、そうなるのが自然ですが)。なかにはご自身の実践例を書いてお送りくださったかたもいらっしゃいます。大いに意を強くした次第です。

 もちろん、ネット上などで、わたくしの意見に対する批判も見受けられます。こちらの真意を正しく理解しないでの批判もありますが、あの限られた紙面だけで、こちらの真意を誤解なく理解せよと言っても無理があることはよくわかります。いずれ、わたくしの考えをきちんとまとめた、一般向けの本を書こうと思っています。その意味で、誤解も含め、ネット上の批判はそこから学ぶところがあり、ありがたく思います。

 とは言え、これだけは直ちにきちんと真意を伝えておかなくてはという点を含んだ批判もあります。それは松本さんの意見も、わたくしの意見も、程度の差があるだけで、根本的には同じものであるという見解です。

 その見解はおおよそつぎのようにまとめられます。①外国語としての英語学習に文法が必要であること、②知識や技能の定着のために練習が重要であること、③学習した英語はコミュニケーションのために役に立つものでなくてはならないことの3点については両者とも違いがない。松本意見は②と③に重きを置き、大津意見は①に置く。違いはそれだけで、表面上の対立図式にもかかわらず、両者の隔たりは量の問題で、質の問題ではない。

松本さんとわたくしの意見は根本的に違います。それは「ことば(language)」(無冠詞、複数語尾なし。つまり、抽象名詞としてのlanguageということです)という視点を明確に持っているかいないかの違いです。別の言い方をすれば、日本語も英語も共通の基盤の上に立っているという認識を明確に持っているかいないかの違いだということになります。

 「明確に」と強調したのは、日本語も英語も人間のことばに違いないのだからという漠然とした気持ちではなく、その「共通の基盤」についてある程度「明確な」認識を持っているという意味をはっきりさせたかったからです。

 冒頭で触れたように、この点をきちんと解説するのにブログはふさわしくありません。ただここで一点だけ強調しておきたいのは、「日本語も英語も共通の基盤の上に立っているという認識」はわたくし自身の認知科学理論(生成文法)だけをよりどころにしたものではないという点です。ことばについてある程度考えたことのある人で、ことばが個別性(個性)と普遍性の両面を持つことに異論があるということは稀です。ただ、その普遍性とはどのようなものであるのかでさまざまな立場に分かれるのです。

(上記2と3についての記事へ続く)

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