top of page

公開シンポジウム「次期学習指導要領をどうする!?」報告

2026年8月8日(土曜日)午後、関西大学東京センターにおいて「次期学習指導要領をどうする!?---外国語教育の視点から」を開催いたしました。

 

会場参加者約90名、オンライン参加者約250名というたくさんの参加者を得て、午後1時から午後4時30分まで、6つの講演と全体討論が行われました。今回は鳥飼・江利川・斎藤・大津の4人組に大西・上野という若手2名を加えた6人組が登壇しました。

 

開催趣旨等の説明に続き、まず江利川春雄さん(和歌山大学名誉教授)が「現行学習指導要領はどこが問題で、どう改善すべきか」と題して講演しました。公表されたばかりの令和8年度全国学力・学習状況調査の報告書・集計結果をはじめ、多くの資料を駆使して英語科教育の実態と問題点を浮き彫りにし、とりわけ生徒たちの英語学力が低下傾向にあることを具体的に示しました。そのうえで、今後改善すべき点を提示し、外国語教育の本質は、子どもたちに外国語を学ぶ喜びを実感させ、ことばの力と協同する心を育むことにあると論じました。今回の公開シンポジウム全体の基調をなす講演でした。

 

続いて、大西里奈さん(大阪大学(非))が「すべての子どもに豊かな学びを保障するー協同学習から考える次代の学び」と題して講演しました。大西さんは数多くの貴重な写真や教室での観察をもとに、現行学習指導要領の「主体的・対話的で深い学び」はなぜ現場で十分に具現化していないのかについて多角的かつ深い洞察をもとに掘り下げた分析を行いました。そして、「先生たちが子どもを見て、子どもと向き合えるようにしてください。外国語で「何ができるようになるか」の前に、「ことばについて学ぶこと自体が面白い!」と思える授業がしたい!過密な教育課程、過剰な評価、活用実績を求めるICT政策が創造的な実践を阻んでいます」ということばで講演を締めくくりました。子どもたちと教員の双方の視点に立った講演は多くの聴衆に感動と勇気を与えるものでした。

 

上野舞斗さん(四天王寺大学)は「生成AI時代の学習指導要領はどうなるのか――外国語科教育の目的論を問い直す」と題して講演しました。「外国語科において英語だけを扱うことで、教育基本法が掲げる教育の目的を十分に達成できるのか」という問いを提起し、理想的には英語以外の外国語も扱うべきだとしつつ、「外国語=英語」という状況が明治政府の財政事情、すなわち資源の制約に端を発することを指摘。そのうえで、平泉試案に見られる「世界の言語と文化」という発想に注目しました。また、AI時代の外国語教育における「ことばへの気づき」の重要性を説き、それが異文化理解へとつながる可能性を示しました。言語学、とりわけ音声学・音韻論と日本英語教育史を研究領域とする上野さんならではの、歴史と理論を往還する講演でした。

 


休憩をはさんで、わたくし(慶應義塾大学名誉教授)は「英語学習における資源としての日本語――複言語主義の立場から」と題して講演しました。先日逝去された和田稔元文部省教科調査官・明海大学名誉教授の論考を手がかりに、ことばと文化における「個別と一般」の区別と、「一般をとおして個別がつながる」という考え方を論じました。また、外国語教育WGのとりまとめにはこの点について現行より踏み込んだ思考の跡が見られるだけに、それが表現にも明確に反映されることを求めました。最後に、国語科と外国語科の将来的な合科を視野に、まずは両科の連携を真剣に探るべきだと結びました。

 

斎藤兆史さん(東京大学名誉教授)は「学習指導要領に求める(べき)こと」と題して講演しました。斎藤さんは、現行学習指導要領の日本語表現に見られる乱れを指摘し、まず「正しい日本語で書かれていること」が大前提であるとしました。また、現場を萎縮させない内容であることも重要だとし、「授業は英語で行うことを基本とする」や「読む活動においては……訳読によらず概要や要点をとらえるような言語活動」といった、誤解を招きかねない記述からの脱却を求めました。英語教育において、対象である英語そのもの、そして何よりことばを大切にしてほしいという思いのこもった講演でした。

 

最後に、鳥飼玖美子さん(立教大学名誉教授)が「異文化コミュニケーションの視点から次期学習指導要領を考える」と題して講演しました。外国語教育WGの取りまとめ(案)で示された「AI時代に外国語を学ぶ本質的意義」を取り上げ、異文化コミュニケーションの重要性を論じました。そのうえで、異文化コミュニケーションを考える際に欠かせない視点として、「コンテクスト」「意図と発話」「ポライトネス」「非言語コミュニケーション」の4点を挙げ、とりわけ非言語コミュニケーションにおける文化ごとの差異の重要性を強調しました。さらに、「アルファ世代」に属する子どもたちにどのような教育を提供すべきか、今後いっそう考察を深める必要があると述べ、講演を締めくくりました。

 

最後の1時間は全体討論として、6名の登壇者が対面参加者からの質問に答えながら、この日話題となったさまざまな問題について意見を述べ、議論し、理解を深めました。

 

全体として、今回の公開シンポジウムは、江利川さんが講演で指摘したように、外国語教育の本質は子どもたちに外国語を学ぶ喜びを実感させ、ことばの力と協同する心を育むことにあるという原点をあらためて確認する機会となりました。同時に、学習指導要領は学校教育の実践を担う教員とそこで学ぶ子どもたちを萎縮させるものであってはならないということも全体を通して繰り返し確認されました。

 

今回は大西里奈さんと上野舞斗さんの若手2名を加えた「6人組」での初めてのシンポジウムでしたが、参加者からの評判はおおむね好意的でした。もともとの4人も認知科学、(英語)文学、日本英語教育史、協同学習、通訳・翻訳学、異文化コミュニケーション学と多様な背景を持っていましたが、大西さんの加入によって子どもと教員の視点、上野さんの加入によって音声学・音韻論の視点が加わり、さらに新たな視点が加わったことになります。

 

この公開シンポジウムをもとにした書籍をひつじ書房から「ひつじ英語教育ブックレット」の第5巻目として出版予定です。

 

新生6人組の今後の活動にご期待ください。

 

【付記】今回はYouTubeを利用したオンライン配信も行いましたが、配信は株式会社ノエックス(山田祐輝社長)さんが担当してくださいました。記して感謝いたします。

 
 
 

最新記事

すべて表示
名古屋大学大名力のフォニックス公開講座

恒例になっている大名力(おおな・つとむ)名古屋大学教授によるフォニックス関連の公開講座がことしも下記の要領で開催されます。 名古屋大学英語学主催 公開講座 「“フォニックス”の説明の仕組み」 英語の綴りの読み書きの学習のために用いられる「フォニックス」と呼ばれる教授法について、項目の配列順序、各規則の内容、説明(回避)の仕組み、用語等を英語書記体系論の観点から理論的に考察します。【※フォニックス(

 
 
 

コメント


bottom of page