柾木貴之(北海学園大学)著『国語教育と英語教育をつなぐ---「連携」の歴史、方法、実践』が東京大学出版会から刊行されました。
この本は征木さんが2018年に東京大学大学院総合文化研究科に提出した博士論文をもとにしたもので、2022年に第3回東京大学而立(じりつ)賞を受賞し、同大学学術成果刊行助成を得て出版の運びとなったものです。
456ページという大部の本です。定価11,000円(税込)と高価ですが、大学図書館などではぜひ備えて欲しい重要な著作物です。
目次はつぎのとおりです。
序章 研究の背景・目的・方法
第1章 先行研究
第2章 「連携」に向けた議論の歴史
1 概説
2 明治期から1950年代――国語教育と英語教育の乖離
3 1960年代から70年代――言語教育という理念の出現
4 1980年代から2000年代――共通の基盤の模索
5 2000年代から現在――実践の登場
第3章 「連携」の目的と方法
1 「連携」の目的と意義
2 「連携」の方法
第4章 「連携」の実践
1 共通教材と共通活動を定める実践
2 国語教員と英語教員のチーム・ティーチング
3 共通教材・共通活動を定めない実践例
4 本章の実践により見えてきたこと――「連携」の現代的位置づけ
第5章 総合考察
1 「連携」に向けた議論の歴史
2 「連携」の実践
3 結論
4 今後の課題
参考文献
あとがき
第3章までが本書の白眉ともいうべき部分で、なかでも第2章の「連携」史は貴重です。本書のもとになった博士論文の主査が斎藤兆史さんであることを知ればそれもむべなるかなと思い至りますが、わたくしはここまで詳細に検討された「連携」史をほかに知りません。
本書にも書かれているとおり、現行の学習指導要領には国語教育と英語教育の「連携」を促す文言が随所に埋め込まれています。「連携」の必要性を訴え続けてきたわたくしとしては《やっとここまで漕ぎつけたか!》という思いを抱いたことは事実ですが、いまのところ、「連携」はなかなか進んでいないというのが実感です。
「連携」の意義を説き、実践例を示したりして、わたくしなりの努力はしているのですが、なかなか思うに任せません。そうこうしているうちに、次期学習指導要領に向けた改訂作業が確実に進行している状況を考えると一抹の不安を覚えないわけではないというのが本音です。
そういう状況で本書が刊行されたことの意義は大きく、本書によって「連携」の意義が広く認識されることを願っています。
もちろん、本書1冊に「連携」のすべてが盛り込まれていることを期待するのはいささか筋違いです。たとえば、第4章で取り上げられている「「連携」の実践」はあくまでいくつかの例を詳細に検討したものであって、網羅的であることを意図したものではありません。そこで紹介されているもの以外にも、小中高大、それぞれの校種で、数多くのさまざまな「連携」実践が行われています。
本書は国語教育と英語教育の「連携」に向けた起爆剤として位置づけるのが正しく、それをきっかけに、「連携」の灯を大きくともしていくことはわたくしたちに課された責務と言えます。
幸い、現在、柾木さんとは科学研究費の基盤研究(B)「英語教育と国語教育の連携に関する理論的・実証的研究」でご一緒していますので、互いに研鑽を積み、その成果をシンポジウム、講演会、出版物などの形で公開していきたいと考えています。
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